2017/02/13 20:10

現在、Jリーグでは150㎝台中盤の選手から、190㎝台の選手まで、その差が実に40㎝の選手たちが活躍しています。

しかし、それだけを見て「身長の差があってもサッカー選手になれる」というのは早計なようです。

「トータルアップ」という成長のためのサプリメントを販売している株式会社サンプラスに、身長のためにプロとしてやっていくことを諦めざるを得なかったという社員の方がいると聞いて、電話取材を行いました。

 

 

身長170㎝でもあきらめざるを得なかったプロへの道

photo:・tlc・

 

お話を聞かせてくれたのは、株式会社サンプラスの陽田さん(仮名)です。

 

身長が低いと、サッカーの何が不利ですか?

 

陽田さん(以下、敬称略)「すべてが不利です。競り合いには参加できないし、身長が低ければ筋力も大柄な選手に比べて弱いので、まず当たり負けします。年代が上のカテゴリーに飛び級で参加させてもらっても、体格で負けるのでついていけないこともありました。

県トレセンなどのセレクションを見てもらえればわかると思いますが、トレセンで選ばれるにはまず選手として『目立つ』ということが大事。

では、どこで目立つか、です。大柄な選手はそれだけで目立つ。けれど、小柄な選手はテクニックで目立つしかなくなります。

もちろん、身長が低くてもプロ選手で活躍している方はいる。ですが、その前にふるい落とされてしまう選手はもっとたくさんいることを知ってほしい。

身長は、サッカーだけでなくほぼすべてのスポーツにおいて、世界で戦うのに大事なファクター(要素)です。」

 

 

身長でサッカー選手の道を絶たれることもある

photo:Bea Serdon

 

陽田さんは、高校時代をJリーグの下部組織で過ごしました。年代を飛び級して1,2学年上の学年の練習や大会にも参加していた、いわばもうTOPチームに上がることが約束されていたような選手でした。高校生の時には、県トレセンのメンバーとしても選出されています。サテライトの練習にも呼ばれていました。

ところが陽田さんの身長の伸びは、高校2年生ほどで止まってしまいます。成長期真っ最中の他の選手たちがぐんぐん伸びていく中、高校2年生ほどで「自分はもう伸びない」と実感したそうです。

高校3年生の9月、陽田さんはチームの事務所から「今年は即戦力になる選手だけを取りたい。申し訳ないが、君にトップチームへの昇格はない」と通告されます。その際に言われたのが、「身長」ということでした。「大きいか、とびぬけて(足が)速いか」が判断基準だという説明も受けました。「あと5㎝あれば…」と、言いようのない口惜しさが陽田さんを襲いましたが、どうなるものでもありませんでした。

陽田さんは「9月から卒業までの記憶がない」と言います。昇格が約束されていたようなものだったので、大学への進学準備もしておらず、もちろん就職する準備もしていませんでした。真っ白になってしまった陽田さんを見かねた同級生が声をかけてくれ、卒業後数年は友人の家業を手伝いました。

そして現在は、「トータルアップ」というサプリメントの開発及び販売に携わっています。

低いといっても、170㎝といえば、成人男性の平均身長よりもほんの少し低い程度です(日本人男子の平均身長は成人で171.49㎝)。さして低いわけではありません。それなのに、サッカーの世界では「低い」といいます。

サッカーの世界の「身長」とはどのようなものでしょうか?

 

 

身長が低いのは本当に不利か?

身長が低い選手は、高い選手に比べて筋肉量と瞬発的パワーが劣るという調査結果があります。

これらの調査によると、「サッカーは瞬発的パワーがあればよいというものではない」と断りながらも、「身長の大きいものは最大無酸素性パワー(ダッシュ等のことです)も大きいという結果になった」「脚の筋力の左右平均値と身長との関係を調べたところ、身長が大きいと筋力も大きいという傾向にあった」と書かれています。

身長が低いということは絶対的なハンデにはなりません。低くても活躍している選手はいます。けれども、一般論として調査した場合、
・ダッシュ等の力
・脚を曲げ伸ばしする筋力
・全身の筋力
において身長の高い選手のほうが有利であるという結果が出ています。

低い選手は、体格で勝負できない分、テクニックで大きい選手以上のひらめきを見せなければなりません。もちろん、同じ程度のテクニックなら、体格の良い選手のほうが優先されるでしょう。それを考えると、「身長は低いよりも高いほうがサッカー選手として有利である」といえるのではないでしょうか。

参照:
日本のサッカー選手の除脂肪体重と筋断面積ーU13からプロまでの年齢変化(参照:東海保健体育科学31 2009年)
1999年度報告「ジュニアユースサッカー選手(中学3年生)の体力特性ー等速性脚筋力と最大無酸素性パワーを中心にー」(参照サイト:三重県学校ネットワーク」

 

 

「身長は遺伝する」は都市伝説?

photo:Randen Pederson

 

親の身長に定数を掛けると、子どもの身長がだいたい想定できる、という計算式があります。それは果たして本当なのでしょうか。

実は、身長は遺伝的要因で推測することはできません。身長の遺伝率は約7割程度で、あとの3割は環境因子が占める、という考え方もあります(1)。

平成13年(2001年)1月10日-17日生まれか同年7月10日-17日に生まれた全ての子どもを対象として現在も行われている調査があります(2)。身長はその子の持っている遺伝子的要因と後天的な栄養と環境によって定まるのですが、そのうちの決定的に強い影響を持つ因子(原因)は何だろう?という調査です(この調査は継続中です)。この研究がなされるくらい、実は、身長における遺伝的要因は私たちが思っているよりも少ないのです。

(1)ヒトの身長・体重における親子相関(参照サイト:城西大学 小須田和彦)

(2)子供の成長パターン:21世紀出生児縦断調査に基づく測定(参照pdf:一橋大学 北村行伸)

実際、「身長、血液、知能は多数の遺伝子との相乗作用と、さらに環境因子が加わって決定される」とされています。(遺伝・遺伝性疾患の基礎知識 (参照:長崎大学病院)

しかも、子どもが男子の場合は、染色体の関係で「男性は女性より遺伝情報が少ない」という側面もあります(1.遺伝と遺伝子(参照pdf:大阪市立大学医学部医学情報センター)。

遺伝に対する研究は進んでいますが、背の高い父と背の低い母の間に生まれた子が
・背が低くなる
・背が高くなる
・中間
とはっきりと分かれるわけではないことも指摘されています。

つまり、身長は遺伝だと思っていると、思いもよらないところで「遺伝のわりに背が伸びない」という事態が起きてしまう可能性があるということなのです。

 

 

身長は18歳までしか伸びない

陽田さんが「自分は身長がこれ以上伸びない」と思ったのは高校2年生の時だったといいます。小学校からずっと、身長はクラスの列の真ん中よりも後ろにいたそうです。中学1,2年生の時は160㎝後半だった方が、どうして170㎝で止まってしまったのでしょう。

人間の成長のパターンは、大きな成長時期が2回あります。1回目は、生後3歳くらいまでの時。2回目は、11歳から18歳くらいまでの時です。体の全体的な成長は18歳前後でストップします。これは、骨が伸びる生長点である「骨端線」が消えるため。

骨端線が消えてしまうと、骨はそれ以上伸びません。そして、第一次成長段階で伸びた子は、第二次成長での伸びが比較的少ないという研究もあります。小さいころ比較的大柄だった子供は、第二次成長期に「思ったよりも伸びない」という現象が起きることも多いようです。

ですから、骨端線が消える18歳までが「身長が伸びる」チャンスなのです。この時期には、骨や筋肉のもとになる栄養を摂ることも必要ですが、成長するのに必要な「成長ホルモン」を正常に分泌するための栄養素を補ってあげることが大切になってきます。

参考文献:子供の成長パターン:21世紀出生児縦断調査に基づく測定(参照pdf:一橋大学 北村行伸)

 

 

成長ホルモンを促進する栄養素

成長ホルモンの分泌には、タンパク質が関わってきます。タンパク質は消化・分解されて「アミノ酸」の形になって吸収されます。アミノ酸は人体内でも合成することができますが、人体を構成している20種類のアミノ酸のうち、合成できないものが9種類あります。

その9種類は食事から摂るしか方法がありません。

アミノ酸には大きな特徴があります。それは、「一番少ない量のアミノ酸の分しか働かない」ということです(ドベネックの桶理論による)。ほかの19種類のアミノ酸が100%摂取できていたとしても、残り1種類のアミノ酸が10%しか摂取できていない場合は、アミノ酸のすべてが10%しか働いてくれません。

成長ホルモンを正常に分泌させるためには、成長ホルモンと一番関係の深い種類のアミノ酸が働けるよう、他のアミノ酸もできるだけ多種類を十分な量取る必要があるのです。

ドべネックの桶理論についてはこちら:リービッヒの最小律とドべネックの桶(参照pdf:BSI生物科学研究所)

 

 

成長ホルモンにはアルギニンとオルチニン

photo:Hiroyuki Takeda

 

成長ホルモン濃度を一番上昇させるアミノ酸はアルギニンです。そのアルギニンが働けるように他のアミノ酸も十分に摂取する必要があるのです。

また、睡眠中に成長ホルモンの分泌に働きかけてくれる非必須アミノ酸がオルチニンです。成長ホルモンは、運動をした後や、睡眠中に多く分泌されます。

成長ホルモンは骨や糖質、水分、ミネラルなどの代謝の促進を主な仕事としています。骨の代謝をつかさどる成長ホルモンがちゃんと分泌されてこそ、骨が伸びること、ひいては身長が伸びることになります。

 

 

背を伸ばすのに必要な3つのこと

photo:Mark Baylor

 

良質の睡眠
成長ホルモンは入眠後に出ます。夜22時から翌朝2時までが一番出るといわれています。その時間帯も含め、十分な睡眠をとることが身長を伸ばす絶対条件です。

栄養バランスの取れた食事
成長ホルモンや、骨を伸ばし筋肉を成長させるアミノ酸は、体の中だけで合成することはできません。栄養バランスの取れた食事も大事です。

足りない分の栄養補給
より効果的に、摂取した栄養素が働くために、足りない分の栄養を補ってあげることが成長を助けることにつながります。

これら3つの条件がそろって初めて、身長に働きかけることができます。そのために、トータルアップを販売しているサンプラスでは、生活面も含めたメールや電話でのアドバイスを適宜行っているそうです。

 

 

最後に
「体格があれば、日本は世界で戦える」という言葉の裏付けを探すために、リオオリンピックで銀メダルに輝いた100m×4リレー(陸上競技)の4選手の平均身長を調べてみました。

実に178.75㎝。平均身長から7㎝も高い4人の力で銀メダルを手にしたのです。

もちろん、スポーツには身長がすべてではありません。センス、テクニック、そういうものすべてを含むのはもちろんです。

ただ、陽田さんの言っていた「3cm低いことは3cmのハンデになる。本人の努力ではどうにもならないところでハンデを背負った状態で戦うことがどんなに大変か」という言葉も真実であると思います。

「3cmのマイナスは3cm分のハンデになる。けれど、5㎝のプラスは武器になる」という世界に挑戦する子どもたちのために、試してみる価値はある、と感じました。

 

 

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